タイトル:おはぎ
私が小学一年生の時のこと。学校から家に帰ると母がいた。母は台所で椅子に座っていた。
「どうしたん?仕事は?」
「今日はもう終った」
声が暗かった。私も椅子に座り、しばらく二人でどんよりしていたが、突然、母が言った。
「おはぎ作ろう!」
小豆をコトコト煮込む。ザラメを入れてさらにコトコト。仕上げに塩を少々。炊きたてのご飯を半殺しにして、小さく丸めてアンコで厚化粧。母と二人、黙々と手を動かす。おはぎが山ほど出来た時、母も私も笑顔になっていた。
父が交通事故で亡くなった時、姉は六歳と四歳、私は二歳だった。母は女手一つで三姉妹を育ててくれた。
「辛いことで胸が一杯になった時、よくおはぎを作った」
大人になってから母から聞いた。祖母もそうだったらしい。母も祖母とおはぎを作ったのだろう。先日、久しぶりにおはぎを作った。コトコトと小豆の煮える音と香りが私をあの時に連れてゆく。
母も祖母も、もういない。
絵本作家の中垣さんより
今まで他の人のお話に絵を描くことはなかったので、僕の絵が合うかどうか心配でした。
でも「おはぎ」というお話を初めて読んだ時に、すぐ絵が浮かび、描き始めたら意外としっくりきたと思います。
原案者さんのお話に引っ張られていい作品に出来上がりました。ありがとうございます。
原作者 坂本ユミ子さんの受賞コメント
母が亡くなって二十七年になります。母との大切な思い出が、素敵な絵本になりました。思い切って応募してよかったです。
中垣ゆたか先生に「美味しそうなおはぎを描いてください」とお願いしたら、ほんまにおいしそうなおはぎの絵だったので、すごく嬉しかったです。
私は二歳のときに交通事故で父を亡くしました。父のことは何も覚えていませんが、さびしくありませんでした。母がいてくれたから―母は私の両親でした。
母もきっと、天国で喜んでくれているでしょう。