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老化はお口から 黒糖が健康寿命を延ばす !
〜黒糖が老化を防ぐ!?商品口腔領域の専門家と共同研究〜
☆本田寛幸/春日井製菓販売株式会社商品開発部
2018年中途入社。商品開発1課所属。口腔機能指導員
☆斎藤一郎/ドライマウス研究会代表
歯科医師。口腔から全身の健康を守ることの大切さを広く呼びかけ、『ドライマウス研究会』を設立。歯科口腔領域の専門家として、国が掲げる高齢者の社会課題の解決に取り組んでいる。
黒糖ってどんなイメージを持っていますか?
おそらく「何となく体によさそう」と答える方が多いのではないでしょうか。確かにミネラル分が多いとか、ポリフェノールが含まれているとか、どこかで見たような聞きかじったような…。実は黒糖の産地・沖縄県在住の人からも、「黒糖が持つ健康効果を示してほしい」「栄養面で他の砂糖との違いを示してほしい」という声が多くあるそうです。
「黒糖の持つ秘められたパワーを解明したい!」
立ち上がったのが、開発チームの本田さん。本田さんは、“健康と長寿”をキーワードに、高齢者向け商品の開発に取り組んでおり、目をつけたのが長年キャンディの原料として使用している沖縄県産の黒糖でした。
そこで黒糖と“健康と長寿”の関係を探りたいと、歯科医師でありドライマウス研究の第一人者もある斎藤一郎先生に研究を依頼することとなりました。
本田さんと斎藤先生との出会いは2019年10月。東京ビッグサイトで開催された『食品開発展』で、先生のセミナーに本田さんが出席したことがきっかけでした。当日の斎藤先生のセミナーのテーマは『超高齢社会における歯科・口腔領域の食品開発』。本田さんは情報収集のために参加し、先生の話が強烈に印象に残ったと言います。
「どうしても先生とお話しがしたい!」
本田さんはセミナー終了後の先生を“出待ち”し、名刺を交換。「黒糖と高齢者」をキーワードに、本田さんは斎藤先生との共同研究を持ちかけたのです。
健康寿命を左右する唾液の分泌量
―高齢化と口腔機能の関連性から教えてください。
斎藤先生:ますます進む超高齢社会において、今、口腔機能が低下する“オーラルフレイル”が注目されています。「食べる」「話す」「呼吸する」など口には様々な働きがありますが、全身の老化より先に、「飲み込みにくい、話がしにくい、むせる」などのオーラルフレイルが起こることがわかっています。つまり口腔機能を高めることが、高齢者の健康に繋がるんです。そのポイントとなるのが「唾液の分泌」です。唾液は口の中の汚れや細菌を洗い流し、食べ物を飲み込みやすくしてくれます。唾液が少なくなると誤嚥性肺炎を起こしやすくなるなど、老化を早めてしまうんです。
いかに唾液の分泌量を増やすか。これが健康寿命を延ばす上では重要になるのです。
本田:先生のセミナーを受講して、弊社が長年商品に使用してきた黒糖がオーラルフレイルに関係するのではないかと思い、「黒糖で唾液分泌を促進する」をテーマに選定。先生に共同研究をお願いしたんです。
斎藤先生:本田さんからの依頼を受けて、確かに黒糖は沖縄の伝統的な食文化に関わりが深く、医学的にも長寿に繋がると考えられています。ただ、この時点では黒糖が健康維持に役立っていると、断言するための確固たるエビデンスがありませんでした。医師として根拠をもって紹介したい。そこからのスタートでした。
本田:斎藤先生が、ポリフェノールの一種である「ケルセチン」が唾液分泌を促進させると発表されていたので、黒糖に多く含まれるポリフェノールも同様に唾液の分泌を促進するのでは?と先生に実験をお願いしました。
黒糖には数百種類のポリフェノールが含まれていますが、その中で特に多く含まれる3種類のポリフェノール(サポナリン、スカフトシド、イソスカフトシド)を選択。3ステップに分けて唾液分泌促進の実験を依頼しました。
ステップ1―培養細胞にポリフェノールを添加し、唾液の分泌量を調べる。
ステップ2―マウスを使った実験
ステップ3―ヒト臨床試験
斎藤先生:当然、実験ですから期待するような結果が出るかどうかは保証できません。実際は研究費用がかかる割に、いい結果が出ないことの方が多いんです。ですからこちらも、すべての企業さんからの依頼を受けるわけではありません。時間もスタッフの労力もかかりますので。今回の本田さんからの依頼は、おそらく望んでいる結果が得られる可能性があると見込んだ上で引き受けました。我々も実験結果を学会や国際誌に発表できますから。
本田:私も今回の実験にあたっては、慎重に進めたいと思っていました。なので3段階に分けて依頼し、もしステップ1の細胞実験で思った結果が出なければ、そこで中断もやむなしかと。
斎藤先生:多くの食品企業から研究依頼を受けますが、そのほとんどは、いきなりステップ3のヒト臨床実験を依頼してきて、うまくいかないことが多いんです。ステップを踏めば費用もかかりますから。本田さんのようにきちんとステップを踏んで依頼してきたメーカーは珍しいんです。この研究に懸ける想いの強さを感じましたね。
黒糖は血流を促し、唾液を分泌する
―研究経過について教えてください
斎藤先生:唾液分泌のメカニズムは非常に複雑です。酸っぱいものを食べると唾液は出ますよね。自律神経にも左右されます。ストレスを受けて交感神経が優位になると唾液はピタッと止まり、リラックスして副交感神経が優位になると分泌が促進される。他にもホルモンの影響もあります。特に女性はエストロゲンという女性ホルモンが減少すると、乾燥症候群が起こります。目や口や皮膚が乾く。これは唾液腺の機能の低下によるものなんです。このように様々なメカニズムがありますが、私たちが注目したのは血流との関係性です。唾液の素は血液なんです。血流が良いと唾液の分泌量も増えるのではないかと。
3ステップのすべての実験で、黒糖ポリフェノールを多く含む沖縄県産黒糖を使用したキャンディを摂取することで、血管内の血流が促進され、唾液の分泌量が増えることが検証できました。たとえばストレスを受けると血管は収縮します。よって血の巡りが悪くなり、結果唾液の分泌が抑えられるというわけです。プレゼンなどで緊張すると口が乾いて滑舌が悪くなるという経験もありますよね。これも血流が悪くなることで唾液の分泌が減ってしまうからなんです。ただ黒糖には今回実験に採用したポリフェノール以外の様々な成分が入っています。よって、黒糖のポリフェノールが唾液の分泌を促進したと、言い切るにはちょっと早計です。
そこで、沖縄県産黒糖を使用したキャンディと沖縄県産黒糖を含まないキャンディを比べてみました。すると沖縄県産黒糖を使用したキャンディを摂取した人の方が、唾液の量が増える結果が得られました。これにより、“沖縄県産黒糖を使用したキャンディを舐めるとなんとなく口が潤う”といった“なんとなく”ではなく、統計学的にも実証されたというわけです。結局、基礎研究から臨床研究まで丸2年かかりました。
黒糖の健康的価値の実証を、黒糖産業の発展につなげたい
―本田さんはこの結果をどう活かそうと考えていますか?
斎藤先生:結果が出たということで、「お口が潤う」ということも謳えますし、商品への「機能性表示食品」の表示が可能になります。
本田:確かにそうなのですが、今回の研究結果は、弊社の商品そのものとは分けて考えています。「黒あめ」に付加価値を付ける目的で行ったわけではないんです。40年以上もお付き合いしている沖縄県黒砂糖協同組合様への敬意もあり、より多くの人にも企業にも黒糖の素晴らしさを知ってもらい、企業に対しては、黒糖を使った商品をどんどん開発してほしいという思いが根底にあります。
黒糖は沖縄の離島でのみ作っています。離島の生活を支える基幹産業であることに加えて、国土防衛にもつながっています。しかしまだまだ黒糖を使った商品を作るメーカーはそれほど多くはありません。沖縄県を守っていくためにも、この研究結果を大いに活用してほしいと思っています。
斎藤先生:なるほど、黒糖産業自体を盛り上げたいという思いなんですね。
本田:その一助として弊社では研究成果を活用した黒糖高配合キャンディの開発も進めています。これが量産化となるとなかなか難しい。配合率を高くして煮詰めるとうまくキャンディにならないんです。
斎藤先生:ボソボソとした黒糖の塊みたいなものですね。
本田:そうなんです。キャンディになりきれないというか。舐め心地もざらついてしまって。これをキャンディにしようとするとどうしても手作業になってしまうんです。それを何とか連続生産できる体制にまでもっていきたいと思っています。
斎藤先生:今回の研究で、唾液の分泌を促すことで高齢者に良い影響をもたらすことが実証されたことは後押しになりそうですね。
本田:その通りで、研究成果を得たことで商品化につなげたいと考えています。
医師として「沖縄県産黒糖」を推薦していきたい
―今回の結果を受けて、斎藤先生はどう思われましたか?
斎藤:まずは春日井製菓さんに対して、学術的にしっかりとした結果をお伝えできたことにほっとしています。沖縄県産黒糖を使用したキャンディの魅力を、データを根拠に堂々と説明できるという点で、お役に立てたかなと。
医師としてもお伝えしたいことがあります。
「シェーグレン症候群」という厚生労働省が指定している難病があるのですが、症状として目や口の極度の渇きが見られます。この治療のために唾液分泌促進薬が処方されますが、この薬は診断されなければ処方することはできません。ただ、薬を処方するまでではない方が多く、そういう方たちには食品で唾液分泌促進効果があるものを案内したいと思っていました。「唾液分泌にはこれをぜひ」と言って、あちこちから紹介される商品もあるんですが、立場上根拠のないものは紹介できないわけです。それが今回検証されたことによって、黒糖を含んだキャンディを紹介することができるんです。私が代表を務めているドライマウス研究会でも、会合の時に唾液分泌を促す食品として、黒糖入りのキャンディを紹介しましたし、実際に差し上げました。
本田:ありがとうございます。私もドライマウス研究会にも参加していますし、先日、口腔機能指導員の資格も取りました。先生とお会いしたことをきっかけに、口腔のことを勉強したいと思いまして。
斎藤先生:それは素晴らしい!勉強すると、世の中にどれくらいの人が口の機能低下で困っているかわかるでしょうし、マーケットの規模感も掴めるんじゃないかと。研究員として知っておくことは大事だと思います。
本田:はい。ありがとうございます。黒糖には数百種類のポリフェノールが含まれていますので、まだまだ未知のことが多く、宝の山です。今後も研究は続けていきたいと思っています。この先黒糖が健康長寿と結びつくという、科学的根拠に裏付けられた新たな研究成果が次々と出てきたら、黒糖の付加価値はさらに高まり、ひいては黒糖の消費増にも繋がり、国土防衛の一助にもなるわけです。
まずは、今回の研究結果をより多くの人に知ってもらうことで黒糖への注目度を高め、これまであまり行われていなかった黒糖の研究が盛んになることを願っています。
また先生ともぜひご一緒させてください。