おかしなくらいおかし好きおかしなひとたち【後編①】新たな部署『おかしな実験室』が おかしな農場を始めちゃいました!?
【後編①】新たな部署『おかしな実験室』が おかしな農場を始めちゃいました!?
前編で「おかしな実験室(通称:おか験)」の『おかしな実験農場』の紹介をしましたが、後編ではおか験のメンバーと畑のオーナー・林俊輔さんのホンネトークを大公開!
〜後編その1〜では、実験農場立ち上げの理由から、おか験メンバー一人ひとりの人物像、さらに実験農場の存在意義までググっと迫ってみます。
Text by 真下 智子|Satoko Mashimo
Photo by 野村 優 | Yu Nomura
春日井市内のブルワリーで青空座談会、ビールと畑の関係性はいかに?
おか験のメンバーも、畑のオーナーである林さんと農場長の源平さんも、初めてのチャレンジとなった1,000粒のえんどう豆栽培。2023年初夏、ビギナーズラック?いやいや皆の思いが通じて大豊作に。およそ10カ月間の農作業を終え、「おかしな実験農場産グリーン豆」の完成という大きな目標に結実!おか験のコミュニティ担当・高木宏幸さんをはじめ、おか験メンバーはすっかりハット&長靴姿も板に付き、さながら“おかしな耕作団”だ。
現在は、秋から再び始まるえんどう豆の植え付けまで、他の作物のお世話をしながら、畑もおか験もさらなるパワーアップの真っ最中。毎月の「畑と自分を育てる日」では、特別バージョンの「お田植え」があったり、ビニールハウスを建てたり、トウモロコシやサツマイモ、落花生を植えたりえんどう豆以外の農作業に勤しみ、午後からの座学ではより濃密な講座が展開されている。
ちなみにこれまでに「畑と自分を育てる日」の参加者は合計50人ほど。少しずつだが確実にこのコミュニティは広がっていて、コミュニティマネージャーである高木さんも手応えを感じているようだった。その高木さんから、またまたお声がかかった。
「ましもさん!ビールはお好きですか?この後、おかしな実験農場が関わっているブルワリーがあるので、一緒に行きません?」
えんどう豆は?と聞かれたときは一瞬考えてしまった私だが、ビールとあらば即答、YESだ。
向かったのは実験農場からほど近い、春日井市内の住宅地にあるクラフトビール専門店「Butterfly Brewery」。オーナー宅の手入れの行き届いた庭に作られた、小さな小さな醸造場。ヨーロッパの田舎町の片隅にでもありそうな、ゆったりとした空気が流れる居心地がいい空間だ。この日も一角に設けられたテーブルでは常連客がビールを手におしゃべりを楽しんでいた。
なんでもここのオーナーである入谷公博さんは、高木さんの大学時代の後輩とのこと。
たまたま農作業の帰りに高木さんがふらりと立ち寄ったところから話がトントンポンポンと進み、ビールを醸造する際に出る「麦芽かす」が、おかしな実験農場で活用されているという。麦芽かすの行き先は、えんどう豆を作る土の中。まさに循環型農業の実践というわけだ。さらに林さんの畑で作ったビーツを使ったクラフトビールを開発・販売しているとのこと。こうやっておか験は外へ外へとその繋がりを確実に広げている。
そんな農場とも縁のあるこのブルワリーで、えんどう豆の収穫を終えたばかりのおか験メンバーと、農場オーナーである林俊輔さんに「おかしな実験農場の今とこれから」を聞くことにした。
お菓子メーカーの社員がまさかの農作業。右も左もどころか、前も後ろも上も下もわからぬまま始めたえんどう豆の栽培。それに伴走してきた林さん。それぞれ何を思い、何に戸惑い、何に喜び、何をしくじったのか。今だから笑って話せる話も、笑えない話!?も太陽の下で大いに語り合ってもらうことにした。
(※座談会のメンバー:農場オーナーの林俊輔さん、おか験室長の原智彦さん、おか験メンバーの高木宏幸さん、新城明久さん、福本健太郎さん。おか験の田内菜月さんは別業務のため欠席なので後から取材。敬称略)
キーワードは3つ「グリーン豆50周年」「SDGs」「人づくり、自分づくり」
― そもそも『おかしな実験農場』のスタートのきっかけは?
原:今年はグリーン豆50周年というアニバーサリーイヤーでした。でも50年ずっと原材料のえんどう豆は輸入。一度自分たちで育てて、ちゃんと向き合ってみる良いチャンスなんじゃないかと考えました。しかも春日井製菓は2028年に創業100年を迎えます。この先の持続可能なお菓子作りのためにも、えんどう豆づくりは良い題材だなというSDGsの視点もありました。さらに、今、当社では「人づくり・自分づくり」をテーマに掲げています。50周年、SDGs、人づくり・自分づくり、これら3つの要素が全て林さんの畑でなら叶えられると思って相談したことが始まりです。
林:原さんからえんどう豆を作りたいという話を聞いたとき、おかしな実験室だから、いろいろなことを実験しなくちゃ!室(部屋)に閉じこもっていないで、外に出て「おかしな実験農場」を作ってみません?と提案したんです。
実は私も昨春から自社でこの農場を開設し、パートナーが欲しいなと思っていたんです。私は「農業の価値を創造する」をテーマに活動していますが、単純に古き良き農業を続けるだけでは、農業は未来に繋がっていきません。新しい価値を提案するための一つの切り口として、私はこの畑をいろいろな人が集い、輝ける場所にしたいと思っていたんです。「コミュニティ」というキーワードを掲げるおか験さんと理想が重なったんですよね。
― でも、原さんと林さんで盛り上がっていても、おか験の皆さんにとっては、いきなり「えんどう豆を作るぞ!」って?…ですよね。
新城:いや、僕は驚きも何もなくて。実験室だから、今までとは違うことはやらないとなぁぐらいにしか思わなかったですね。その何か新しいことを生み出す場所が畑なのか、と。疑問も抵抗感もありませんでした。
高木:新城さんは農学部出身だからじゃないですか?
新城:いやいや、農学部出身ですけど、そんなマジメな学生でもなかったし、農場の実習は少ししかやったことがなくて、せいぜい「うどんこ病が何か」ぐらいしか知らない(笑)。そういう意味では本格的な農作業は楽しみでした。
福本:私は実家が農家なので、なんで仕事でも農業をやらないといけないんだ?とめちゃくちゃ抵抗感がありました。畑作業そのものは慣れているので抵抗はなかったですね。ただ、自分の知っている農業の知識を生かせるかなとは思いました。
高木さんは農業とは全く関わりのない人生ですよね。それこそ驚いたのでは?
高木:それが…。昔から畑をやりたいと思っていたんですよ。農業とフリーライターの兼業で生計を立てている友人がいて、自分もそんな生活がしたいと呟いたら、全力で妻から「定年してからにして!」と言われちゃいまして(笑)。だから仕事で農作業ができるなんてラッキー!と思ったぐらいです。一番抵抗があったのは、田内さんじゃなかったかな?
ここで、後日、おか験メンバーの紅一点!田内菜月さんに直撃インタビュー!
田内:私も農学部出身ですが、食品機能の研究をしていたので在学中に農作業はやりませんでした。え?皆は私が一番抵抗がありそうですって?いやいや、抵抗どころかワクワクですよ。小さい頃、知り合いの畑で畑仕事を手伝っていましたので楽しさは知っていましたし、そもそも外に出て自然と触れ合うのは大好きですから。気になるとしたら日焼けぐらいですかね。
農業はあくまでも手段、個人が輝けば法人も輝く
― 今回のおかしな実験農場開設の目的の一つ、「人づくり・自分づくり」に興味があるんですが、農作業とどんな繋がりがあるんでしょうか?
林:私の会社の柱のひとつはいわゆる「八百屋」です。全国で素晴らしい野菜を作っている生産者さんから直接野菜を仕入れて販売しています。その方々のフィールド、つまり畑には底知れぬパワーが溢れていて、農家さんももちろんパワフル!
農業にはいろいろな価値があると思うんですが、そのうちの一つが“五感が解放される”ことです。サラリーマンの通常業務で、五感をフルに使っている人って少ないように思います。そういう人たちが農業に触れると、五感が研ぎ澄まされるんです。
私は企業に研修プログラムも提供していますが、とある企業から「コロナ禍の3年間、新入社員と飲み会もしたことがない中で、チームビルディングに悩んでいる」という相談を受けました。
私は仲間の農地で耕作放棄地となっていたところを利用して、部員8人全員でひたすら草刈りや竹の切り出しなど開墾に没頭してもらったんです。ほぼ瞑想状態ですね。するといろいろな音や匂いに気づき、それまで見えていなかったものが目に入ってくる。それを全員で共有しました。一人の体験が8倍に膨らむわけです。他の仲間の話から、そうか!という気づきを得ると、次は自分もその匂いを嗅いでみようと経験が重層的になっていきます。
その後職場に戻ると、見える景色が変わるんです。今まで気づいていなかったことが目に入ってくる。例えば、今まで知らなかったけど、この人は毎日机をキレイにしてくれていたんだとか。人は会社の中の繋がりだけでは成長できません。仕事もあって、職場の仲間がいて、家族との生活もあって、その他いろいろな関わり合いの中で成長する。そして自己成長が会社の成長に繋がっていく。農作業をすると、例えばそんなことが実感できるんです。
そんな研修プログラムを、これまでは仲間の畑を借りて提供していましたが、自分たちの畑ができたことで、単発的なイベントではなく、継続的に春日井製菓さんと一緒にやっていきたいと思ったんです。畑もできたばかりで真っさらなので、皆さんが抱えるどんな課題も乗っけられますしね。私たちが思い描いている農業を実現する場と、企業の課題を解決するフィールドにして、共に創り上げる場所にしよう!まさに「協働・共創」ですね。
原:月イチの「畑と自分を育てる日」は、単なる農作業日ではありません。あくまでも農業は手段で、「人づくり・自分づくり」の一環という位置付けです。僕も「個人が輝けば法人が輝く」と思っています。頭も心も身も満たされる農作業では皆すごく良い顔をしています。こんな研修、あんまりないですよ。
さらにもう一つのおか験が大事にしているのが、“閉じるより開く”です。こんなに良い研修なら社外にも開放しちゃおう、と。参加した人がそこに価値を見出してくれたら、「春日井製菓さん、チャンスをありがとう!」ってファンになってもらえるかもしれません。
林さんは通常、研修プログラムを大企業に提供している方なのに、この座学はとても良心的な講師料で請けてくださっています。なぜかというと、午前中に林さんの畑で農作業の手伝いをするから。源平さんと林さんが二人で作業すると半日掛かる重労働が、僕ら10人が加わると2時間で終わる。労働力と講師力の価値交換です。午後の座学だけはNGというのはそういう理由からです。企業が行う最前線の研修を受けてみたい!というニーズは結構あるんだな、と実感しています。だから朝から来て農作業を一緒にやってくれる。今はまだ有給休暇を取って来られる方が多いんですが、ゆくゆくはその会社にも価値を認めてもらい、会社から背中を押されて、業務の一環として来てもらえるようになることが理想です。
いろいろな企業や属性の方が混ざると、価値観やカルチャーが違うので、自然と切磋琢磨されます。学びには①組織内での「レッスン」、②組織内での「紅白戦」、③外の組織との「他流試合」の3つがあり、人がグンと育つのは③の他流試合だと僕は思っているんです。会社に入ると、その会社の価値観や共通言語の中で生きるようになります。そこに長く居れば居るほど「自社が常識」になる。他社の人たちの常識を知る機会ってあまりないと思うんです、転職でもしない限り。でもこの日は、畑でも研修でも外の人と一緒にやるから、「そんな風に考えるのか!」とか「めっちゃわかるぅ~」とか、お互いに共感と発見があって、刺激をたっぷり受ける。結果、加速度的に成長する。それこそが「人づくり・自分づくり」なんじゃないかと僕は思っています。
― 「加速度的な成長」。インパクトのあるキーワードですね。おか験の皆さん、振り返ってみてその実感は?
新城:振り返ってみて…。初回に熱中症になりかけたことをまず思い出しちゃいました(笑)。とにかく段取りというものが何もできていなくて、朝礼をどこでやるのか、立ってやるのか座ってやるのか…。結局炎天下で立って話を聞いているうちに朦朧としてきて。僕は熱中症の経験がそれまでなかったので、ちょっとくらい体調がおかしくても、ちゃんと頑張らなきゃ、と思ってしまったんです。この日は一日中辛かった。
ふと、来てくれた方たちも同じように辛かったんじゃないかな、と思ったんですね。一度しか来られない人もいるわけで、その一回で熱中症になってしまったら、二度と参加してもらえなくなってしまいますから。この経験から、細部に至るまで段取りを組んで臨むようになりました。
高木:私もコミュニティ担当として、次回も参加したいと思ってもらうにはどうすれば良いのか、今もすごく考えます。一度、午前中の農作業量が予測できておらず、午後まで延長しないと終わらないから、と午後の座学の時間を削ったことがありました。その時はもう目の前のことに一杯いっぱいで…。後になって、座学を楽しみに有給休暇を取って来てくれていた方を、とてもガッカリさせてしまっていたことを知りました。参加者の気持ちに想いを巡らせることが全然できていなかったんだと、すごく申し訳なくて、落ち込みました。
原因はひとえに段取りの悪さ。それから自分ができていないことが一つずつ見えてきて、それを改善していく。でもまた次にできないことが見えて、また改善していく。その繰り返しです。ただ最初の頃は「できていない」と認識さえできていなかったので、少しは成長したと思いたいです。
ここで再び田内さん!
田内:今思えば、確かに段取りは最悪でした。参加してくれた皆さんにやってもらいたい作業が予定通りに終わらず、丸一日かかっちゃったときは、臨機応変さも判断力もなくて。それからは挽回しなきゃって私も強く思いました。今もまだまだですけど、試行錯誤の真っ最中ってところです。
原:皆、「まだまだできてない」って言いますけど、いや確実に進化してます。自分たちではまだ自覚できていないかもしれないけど、自分に求めるものがどんどん増えていますから。そうやって“自分ごと”として考えられるようになることこそが成長だと思っています。光と愛情と水を注がないと作物は枯れちゃうし、ツルって上に伸びていないと成長していないように思っちゃうけど、実は根っこを下へ横へと伸ばしている段階ってこともありますよね。そうなるためにはやはり良質な土壌と刺激が必要。会社は畑で、そこにできる作物は社員だなぁとつくづく思うんです。こうしたいろんな試行錯誤の経験が社員の成長の肥やしになっていると確信するシーンを、何度も目の当たりにしました。
林:畑って究極になると肥料も何も入れなくてもちゃんと作物が育つようになるんです。我々の畑はまだ全然そんな状態ではないので、手助けのためにキクラゲの廃菌床や、伐採した街路樹を砕いたチップや、クラフトビールで使命を終えた麦芽かすを入れていますけど、そのうちに畑が自走し始めるんです。そうなると、何を入れてもどうやっても勝手に育つ。これってまさに組織と同じですよね。各部署で各人が自走し始めたら一気に組織も動き出します。