Kasugai春日井製菓株式会社

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眠っている黒糖の知られざる底力を掘り起こす。〜春日井製菓の黒糖リサーチャーたち〜


◎本田寛幸 Honda Hiroyuki/商品開発部 商品開発1課/2018年中途入社
◎大原千洸 Ohara Chihiro/商品開発部/2018年新卒入社

1980年に発売されて以来、子どもからお年寄りまで多くの人に愛されて続けている春日井製菓の「黒あめ」。ちょっと大きめで、口に入れてほっぺをぷーっと膨らませ、こっくりじんわりとした甘さにニッコリとしてしまうのは当時から変わりません。

この黒あめの原料となっているのが沖縄産の黒糖です。

黒糖って?もちろん聞いたことも食べたこともある。体に良さそうというイメージはあるけど実はどういうものなのかよく知らないという方も多いのでは?

沖縄でも離島でしか生産されていない黒糖。その秘めたる機能的成分のパワーから、国土防衛にも大きく関わるという、実に壮大な黒糖産業の現状についてまで、現地にも訪れた若き研究開発者2人に語ってもらいました。

―現在、お二人はどんな仕事を担当していますか?―
本田:商品開発部の1課は「グミ」と「豆 ・素材菓子」の開発を担当しています。

私はグミチームに所属しており、まだ世の中にはないグミをゼロから作り上げていくことを任されています。具体的には、新しい「食感」を作り出す研究をしています。食感には硬さや柔らかさだけでなく、弾力のあるなし、噛みやすさや噛みにくさなど、いろいろあります。他社さんの商品も含めて研究し、いかに春日井製菓にしかない食感を作るかが与えられた使命です。何より、食べた時にワクワク感を感じてもらえるようなものが作りたいですね。

大原:私はキャンディの開発を4年間担当してきました。マーケティング部と一緒に新商品を考えて 、量産ラインに乗せるまでのすべてに関わっていました。

2022年1月からチャレンジチームに加わり、ここでは本田さんと同じようにゼロから新商品を作っています。私の場合は豆菓子、キャンディなどジャンルに関係なく、新しい食感や新しい機能性食品など、OEM(委託製造)も視野に入れながら、企画から商品化までを担当しています。このチームで私が関わったのが『女王のミルク』です。

現在は、本田さんと共に「高齢者プロジェクト」の活動も行っています。

―高齢者プロジェクトとは?―
本田:団塊世代が75歳以上となり、超高齢化社会の訪れとともに社会の構造が大きく変わると言われている“2025年問題”。ここを見据えて3年前に開発部の中に発足したプロジェクトです。キーワードは“健康寿命”このプロジェクトはマーケティングというより、基礎研究に重きを置いています。健康寿命を延ばすためにはどんな食材がいいのかを考えた時に、まずスポットを当てたのが黒糖でした。

当社でも黒糖で「黒あめ」を作っていますが、この商品に手を加えるのではなく、黒糖そのものにフォーカスして研究することが目的です。

大原:キャンディチームにいた時に、黒あめに関わっていました。生産現場にもよく行っていましたし、工場の生産テストに立ち会うこともありました。このプロジェクトに入ってからは、少し視点を変えて黒糖を見ています。私はもともと大学院でも栄養学を学んでおり、園芸や農業についても関心を持っていました。その中で、昔から長寿県・沖縄の人の健康を支えているのは黒糖じゃないかと。その理由を探っていく研究を進めています。

本田:大原さんと違って、私自身は 黒糖の商品に直接携わったことはありません。ただ、前職が食品衛生法に基づく厚労省の登録検査機関 で食品分析を行っていたこともあり、“安全・安心・健康” というキーワードで、世の中の多くの人の役に立ち、商品にも繋がっていく素材を考えた時、たどり着いたのが黒糖でした。

プロジェクトの活動自体は2020年 の1月にスタート。高齢者プロジェクトをどんなアプローチ でやっていけば良いかなど、研究計画の前段階となる構想作りから、社内プレゼンを経て、2021年の1月 から研究が始まりました。

お菓子を作っている企業ですから、口から摂取するものとして、キャンディに何か機能的な食材を混ぜて健康的な効果を実感できるものが作れたらいいなと。

大原:キャンディにした時に、健康にいい影響を与えられるものを開発する。それが最終目標ですね。

―実際の研究がスタートして、1年経っていますが、現在はどれくらいまで進んでいるのでしょうか?―

大原:黒糖には大量のポリフェノールが含まれていることがわかっています。おそらく黒糖にポリフェノールが含まれているということに、ピンとこない人の方が多いと思います。

本田:ポリフェノールには抗酸化作用があって、錆びない体を作ると言われています。これはサトウキビが本来の機能として持っている作用です。サトウキビは生命力がとても強い植物なんですが、抗酸化作用が植物の強い生命力につながっているんじゃないかと。

大原:黒糖には保水機能のある成分や、ミネラル、ビタミンも豊富に含まれていることはよく知られていますよね。まだまだ知られていない有効成分があると思われるのですが、それが価値のあるものなのか、魅力的なものなのかはまだわかっていないんですけど。

―沖縄の離島のサトウキビ畑に行かれたそうですね。―

本田:はい。実は黒糖は沖縄県では離島でしか生産していないんです。

また、黒糖は一年中作っているわけではなくて、12月から4月ぐらいまでの期間限定で、一斉に作られます。この時期は全国から人が集まってきて、農家の手伝いや工場での作業も行っています。1年分の黒糖を作るんです。

サトウキビは身長を軽く超えて、高さ3mぐらいになります。畑を見ると密集しているんです。正直こんなに育つんだ!と驚きました。

大原:しかも重くてとても一人では運べません。刈り取るのも大型機械を使うところもあるし、手刈りのところもある。どちらにもメリットとデメリットがあって、機械を使うと不純物が多くなるので、後で仕分けをするのが大変なんだそうです。

不純物が多いと黒糖が固まらないので商品にならないんです。だから全部機械で刈るわけにもいかず、生産効率や黒糖の質を考えて、うまく使い分けているみたいです。

本田:私は機械刈りを見ましたけど、大きなハーベスターで畑に突進していって、根こそぎなぎ倒していく!圧倒されました。

大原:すごい迫力でしたよね。3mものサトウキビが次々と。これを等間隔に切って運びやすくして、精糖工場にトラックで運んでいました。

本田:サトウキビを持ち込まれた工場では、1本の1/3は捨てていました。糖が入っていないので使えないんです。それがどの部分なのかを瞬時で判断する必要があります。これこそ職人の目利きです。特にハーベスタ ーでの機械刈りの場合は、等間隔に裁断されるので、見てすぐにわかるのはすごいと思いましたね。

大原: 黒糖は、現在8つの離島で作っていますが、各島によっても味が違いますよね

本田:それって多分、土壌由来の成分に影響しているんじゃないかな。土壌が違うから黒糖の味も変わってくる。あとサトウキビの品種もあって、島の気候によって生育しやすい品種があるんじゃないかと。島ごとに最適な品種のものを育てるから、味も変わってくるんだと思うんです。

大原:確かにそれはあると思います。島ごとに独特の味があって、それをブレンドすることによって、美味しい!と思える味を黒あめに使っているんです。コーヒーに近いような感じでしょうかね。ブレンドして美味しい味が作れるというのがおもしろいんです。

本田:なるほど、コーヒーのブレンドとはおもしろい。8種類あるからブレンドによって、さまざまな組み合わせができそうですもんね。あと、島ごとにある精糖工場の設備によっても味が変わるみたいです。全く同じ機械で作るわけではないので、味の深みやコクに違いが出るんじゃないかと。

つまり、土壌、品種、精糖工場の設備の3つの違いが、島ごとに違う黒糖の魅力を生み出しているんじゃないかと思いますね。

大原:味もそうですけど、分析すると同じ黒糖でも島ごとで成分の違いも多少あるんです。さらに熟成させると黒糖の中の糖分とアミノ酸が反応して、また違う味を生み出したり、奥が深いんですよね。

本田:出来立ての黒砂糖と1年寝かせたものとで味の違いがありますからね。特に黒糖の場合は加熱調理するイメージがあります。その温度でも複雑な反応が起こりそうですよね。加熱する温度帯によっても反応が変わるので、まったく同じ味にならないんでしょうね。

―黒糖が日本の国土政策とも大きく関わっていると聞きましたがー
大原:私も黒糖に関わるようになって初めて知ったんですけど、黒糖を作ることが、離島の雇用を守ることにつながり、ひいては日本の国土の防衛になるんです。

本島ではサトウキビは作っていますが、黒糖は作っていません。黒糖を作っているのは離島のみで、離島の生活を支えているのが黒糖なんです。

本田:私もそれを知って驚きました。国土の防衛ってスケールの大きな話だなと。結局、離島で人が生活している状態を維持することが、国土防衛にとって重要となるため、黒糖産業は国としても重要な位置付けがなされているということなんです。

大原:社会的な役割として離島の雇用を守ることは大事で、そこに黒糖が深く関与している。そうなると黒糖全体を盛り上げたいという思いになりますね。

ただ、いろいろ課題もあります。まずは在庫問題 。どの工場も困っていました。特にコロナの影響で観光需要が減っているというのも関係しているようです。

本田:沖縄県は観光県なので、コロナの影響で国内外からの観光客が減ってしまいましたからね。それに反して年々温暖化が進んでいることと、近年台風や干ばつが少なく、サトウキビの生育が良好で収穫量も増えたこともあります。

かつて台風で黒糖が足りなかった時期もあったんですが、その時に輸入ものの安い黒糖を使ってから、沖縄の黒糖に戻ってこなくなってしまった。需要を失ってしまったんです。ここを挽回するためには、もっともっと健康効果をクローズアップして需要を増やす必要があると思っています。

―今後、黒糖の素晴らしさをより多くの人に知ってもらうために、やらなければならないことは?―
本田:実際に過去の研究結果を調べてみると、2010年前後で研究自体がストップしているんです。機能よりも、収穫量をいかに増やすかといった品種改良のような農業的な観点にフォーカスされているんです。そういう意味ではまだまだ機能性という点で深堀りできるのではないかと考えています。その役割を担えるのが、黒糖を長年使っている春日井製菓なのかなとも。

大原:やはり研究は企業に依るところが大きいと思います。例えば、カカオについての研究が進んで、健康効果をうたっているチョコレートがたくさん出ました。これもメーカーあっての認知だと思うんです。

本田:確かに大学の研究だけでは、難しいですからね。私は、研究と併行して、黒糖のお菓子のブームを作りたいと思っています。実際、純粋な沖縄黒糖が全国に流通しているかというとそうではなく、消費者にはなかなか届かないのが現状です。やはり消費者の口に届けるためにもメーカーの存在が大きい。企業が積極的に取り上げて盛り上げていかなければなりません。

2022年は沖縄本土復帰50周年の記念の年となり、ドラマの舞台になったり、コンビニでは沖縄フェアなどを開催して盛り上がりました。この流れからさらなる盛り上げを作っていくのがメーカーの使命かと。そのためにも効能をきちんとうたえるよう、研究のスピードを上げていかなければなりません。

大原:現地の農家では、高齢化による後継者不足や黒糖の新規需要の開拓がなかなか進まないことによる経営面での苦労など、黒糖を取り巻く環境は厳しさを増しています。我々春日井製菓は、黒あめを発売した42年前から沖縄の黒糖に支えられてきました。またこの黒あめが農家さんを支えてもいるわけなので、相互扶助の関係です。我々が黒あめを売ることで農家さんにこれまで支えてもらったことにお返しをしたいですし、それが国の助けになるということももっともっと発信しなければと思っています。

本田:本当にその通り。まずは、社内で黒糖自体の魅力を伝える勉強会を開催して盛り上げ、その熱を社外にも放出していきたい。今、少しずつ進めているところです。

黒糖はその大半が業務用で、消費者向けのものは沖縄県内でしか流通していないものが多い。一口サイズのものとか、少量パックで安全安心に届けられるものがもっと広がればいいんですが、設備投資の問題や資金の問題で、なかなか進んでいないのが現状です。そんな中でも設備投資をして、コンビニの流通チャネルを利用して全国販売へと動き出したところもありますが、やはりまだまだこれからという段階です。

沖縄に行って驚いたのは、普通にお茶受けとして一口サイズの黒糖を食べているんです。地元のさんぴん茶を飲みながら。もちろん料理にもたくさん使っています。白砂糖ではなく黒砂糖です。お恥ずかしいのですが、高齢者プロジェクトで黒糖に関わるようになってから、初めて加工黒糖(※)と黒糖の違いを知りました。(※粗糖と原料糖蜜に黒糖を5%以上配合したもので100%黒糖ではない)黒糖が持っている健康価値や栄養価を軸に、長寿と黒糖の関係など、まだまだ研究するべきことはたくさんあります。

大原:私も黒糖は沖縄に行って食べるものだという認識でした。あれば買うかもしれませんけど、探してまで買って食べようとは思いませんでした。ただ、現地で収穫作業の様子を見たり、精糖工場の方からお話を聞いたりしてからは、選んででも食べようという思いになりました。一人でも多くの人に同じ思いになってほしい、選んでほしいです。

本田:だからこそ、まずは黒糖の持つ健康価値を知ってもらうことが大事で、同業他社さんを含めて、黒糖を盛り上げよう!という我々の思いに賛同してもらえるよう、そのきっかけづくりを春日井製菓が先頭に立ってやっていきたいと考えています。

大原:まだまだ知られざる黒糖パワーが眠っているはずなんです。それを見つけ出して抽出、添加し、機能性成分を含む健康にいい商品を開発する。これが目指すゴールです。

本田: 今後、ますます進む高齢化社会において、注目されているのは予防医療です。薬で治す時代から食で解決する時代へ。多くの機能性食品が市場に出ている一方で、黒糖の研究は10年前からストップしています。きっと宝が眠っているはずなんです。その宝探しを、黒あめを40年以上作り続けている春日井製菓がリーディングカンパニーとなって、一人でも多くの研究者や企業と手を取り合ってやっていけたら本望です。

〜対談インタビューを終えて〜
私は沖縄を訪れると、まず購入するのが一口サイズの黒糖のかたまり。運転する時も宿で一服する時もいつも口にポイっと。これ、沖縄以外で滅多にお目にかかることがない。今回、その理由が黒糖そのものは、ほぼ業務用しか流通していないことを知った。もう一点、沖縄のあちこちで目にするサトウキビ畑だが、黒糖は離島でしか作っていないということも驚きだった。しかも島ごとで種類も味も違うとは!

商品開発に関わるお二人も、プロジェクトが始動した当初は私と同じような驚きが多かったとか。そんなお二人が研究を進めていく中で、現地に足を運んで収穫作業の様子を見て圧倒され、精糖工場で黒糖産業の厳しい現状を知る。自分たちメーカーにしかできないこと、やらなければならないことがあると語るお二人。これまで長年黒あめでお世話になっていた農家さんに思いを馳せ、まずは健康というキーワードで黒糖そのものの魅力を広く知ってもらうために、研究データの公開も進めていくという。メーカーの研究者としての使命感を、一語一語丁寧に言葉を選びながら、静かに、そして淡々と語るお二人。その穏やかな表情と語り口の中にも秘めた熱い想いが確かに伝わってきた。

ましもさとこ

一日一餡を公言するアンコ好きライター。
甘いも、しょっぱいも、熱いも、冷たいも…どんなお菓子も人間もなんでもござれ!
2児の母でもあり、自宅にはお菓子専用ストッカーを設置。
通称「グミ也」と呼ばれるグミ好きの次男のために箱買いしている「つぶグミ」(特につぶグミプレミアムがお気に入り)が占拠している。