Kasugai春日井製菓株式会社

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おかしなひとたち

我らおかしな改善隊!vol.2 ショウエイ野田工場の巻

ある初夏の昼下がり、「我らおかしな改善隊」編集部にこんなネタが飛び込んできました。

「グループ会社のショウエイ野田工場が単年度V字回復!」

ショウエイとは、2016年より春日井製菓グループに仲間入りした、人形焼などの東京土産やオリジナルお菓子の企画・製造会社のこと。本社は東京、製造拠点は千葉県野田市にあり、主な販売網はおみやげ店への直販ルート、OEM、ネット販売と、同じ製造業でも春日井製菓とは違う流通モデルで事業を展開しています。

コロナ禍でおみやげ菓子はものすごい苦戦を強いられていることは知っていても、その業績回復のために中で何が起きていたのかは、春日井製菓でも詳しく知っている人はあまりいないのが実情。

そこで私たちは真相を探るべく、一路、千葉県野田市へ向かったのでした。

「我らおかしな改善隊」シリーズの第2弾は、ショウエイ野田工場からお届けします。

今回、野田工場では工場一丸となった取り組みで、V字回復の立役者となった3名の方から、その時の苦労や葛藤、成しえた時の喜びを詳らかに語っていただきました。

下大澤(しもおおさわ) 孝一さん
製造部 人形焼ライン長
2011年入社
大手外食産業でのバイヤーから、菓子業界へ転身。

森下 直樹さん
製造部 人形焼ライン担当
2020年入社
大手菓子メーカーの工場閉鎖に伴いショウエイへ。

遠藤 英子さん
管理部 事務
2018年入社
子育てがひと段落したタイミングでキャリアを再開。

V字回復を可能にしたもの

司会:さっそくですが、V字回復プロジェクトが立ち上がった経緯についてお聞かせください。

下大澤:3期連続赤字が続いていたところへ、コロナ禍です。緊急事態宣言で国内外からの観光客がピタリとなくなって、おみやげ業界は大打撃を受けました。人形焼やクッキーなど、東京みやげを生産していた当社への注文もなくなり、企業として存続が危ぶまれる状況になったのです。先を見通せないなか、「V字回復会議」というプロジェクトが立ち上がりました。

司会:待ったなし、の状況だったんですね。

下大澤:きっかけはトップダウンの号令ではありましたが、改善自体はボトムアップ。現場のことは現場の私たちが一番良くわかっていますから。

森下:「V字回復」という言葉や数字自体には今ひとつピンときませんでしたが、「明らかに生産量が減ってきている」ことは私たちも肌で感じていました。例えば今まで1週間、連日フル稼働していた製造ラインが週に4日の稼働となり、3日となり、1日になって…これまで夕方まで動いていたラインがお昼過ぎに止まっちゃう。さすがに厳しい状況です。

そこで私たちはラインが稼働しなくなった空き時間を生かして、機械のメンテナンスやこれまで外注していた「箱折り」を内製化するなど、現場でできることを模索し始めました。ミーティングを開き、作業レイアウトの見直しや効率化につながるアイデアを出し合い、試して、検証して、を繰り返して改善を進めていったのです。

司会:もともと普段から「改善」の土壌が根付いた環境だったのでしょうか?

下大澤:いえ、どちらかというと指示待ち体質で、「現状維持」を良しとする風潮だったと思います。ただ、春日井製菓から赴任してきた前任の工場長が、徹底した5S活動*の推進など、改善の種を蒔いてくれていました。それが功を奏したというか、コロナ禍という有事に、我々の中に実は根付いていた改善マインドが芽吹いて花開いた、と感じています。

*5S活動とは、製造業の生産現場における、工場改善の基本となる「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の考え方

 

このプロジェクトで成果が出た4つの柱です。
1.原材料費の低減・原価計算の見直し
2.労務費削減(人形焼ラインのレイアウト変更、効率化のための機械導入)
3.製造経費の低減(クッキー、焼き菓子ロスへの対策)
4.バザー開催(工場自ら売上を立てる)

生産現場の改善成果が1から3で、4のバザーは、実は管理部主導で実現したイベントなんですよ。

司会:これらの成果にたどり着くまでに、どれくらいのアイデアが出されたのでしょうか?

下大澤:アイデアを10個試しても、うまくいくのは1つか2つ。その繰り返しと小さな改善の積み重ねです。職歴の長いベテラン勢の知見を形にしていったものも多くありました。

司会:実は改善の原石は皆さんの中にあった

遠藤:そうですね。事務作業においても同じでした。慣習として続けてきたことも、別のやり方を試してみたら、実は正確で速かった、なんてこともあったんです。

下大澤:人って認められたり褒められたりすると嬉しいじゃないですか。ちょっと勇気を出して提案してみたら思いのほか感謝されたり。ありがとうと素直に言える空気が少しずつ醸成されていったことが、今回の成果につながった大きな要因だと思います。

司会:「労務費削減」に寄与した野田工場での改善策とは?

下大澤:人形焼ラインでの箱詰め工程は手作業なのですが、人の動き方の動線を見直してレイアウトを変更し、作業効率を上げたんです。それまで5人で行っていた作業を4人で行えるようになりました。

 


↑ 改善後の人形焼ラインでの箱詰め工程。5人から4人での作業が実現。

 

また、袋詰めの工程では、新規でビニタイ結束機*を導入することにより作業効率が上がり、5名で行っていた作業を2名で行えるようになり、労務費削減に貢献しています。

※ビニタイ=樹脂製の帯の中心にワイヤーを通した結束材料のこと

 

司会:結果だけお聞きすると、スムーズに事が運んだように思えるのですが、ここに至るまでの苦労や、ライン長として配慮したポイントなどはありましたか?

下大澤:労務費削減のため人を減らせば、普通に考えると1人あたりの仕事量が増えますよね。ただ、やり方を工夫することによって、1人あたりの作業量を1から2にするのではなく、プラス0.2ぐらいに収まるような改善方法を提案できれば、皆も「じゃあやってみようか」という気になるじゃないですか。まず「やってみよう」と思えるように配慮しました。そのための工夫が、「レイアウト変更を含めた動線の見直し」や「効率化のための機械導入」でした。

司会:「大変そう」と思わずに取り組めるよう工夫した、と?

下大澤:そうです。いきなり高いゴールを目指すのではなく事前にスモールステップに分解しておくんです。例えばゴール地点を10として、最初に1か2ぐらいまでやってみる。達成できたらいったん止めて、2週間ほどそのまま継続するんです。その状況に慣れたら、次の2週間で4までやってみる、と繰り返していくと、いつの間にかゴールの10にたどり着いた、となるよう、階段状に進めていきました。

司会:一足飛びに結果を出そうとしない、ということなんですね。

遠藤:管理部の視点からお話させていただくと、整理って、どこの部署でもとても大事だと思っています。すぐできることを後回しにするクセがついていると、あっという間に溜まってしまいます。その都度「必要なものを取り出したら元の場所にしまう」よう心がけたり、少しずつでもいいから整理をしていくことによって、探し物をする時間の短縮、あと頭の中の整理にもなります。整理整頓の習慣化の延長線上に、改善へのスモールステップがあるんじゃないかと。

下大澤:あともう1点、抑圧・抑制するような空気にならないよう心がけました。つまりどんな提案にも、まずは「考えてくれてありがとう」と感謝から入る。ありがとう、と素直に言える職場環境であること。先日、前の工場長がこんなことを言っていました。「今回の取り組みの中で、すごく嬉しい言葉を工場のメンバーからもらったよ。コロナ禍で数字は落ち込んでるけど、この改善活動を続けて黒字化できれば『また皆で集まれるね』」と。こういう声がけも励みになるし、嬉しいですよね。

司会:感謝の言葉を掛け合うことは「皆が力を発揮できる」雰囲気づくりにもなるということですね。では製造経費の低減(クッキー、焼き菓子ロスへの対策)の改善策も教えてください。

森下:クッキーの生産ラインでは2つのアイデアを実施しました。焼きあがったクッキーを剥がす工程で、割れ・カケなどロスが多く発生していたので、鉄板にテフロン加工を施すことを発案したんです。試したところ、スルッと一瞬で綺麗な形を保ったままクッキーを剥がすことができるようになりまして。いやぁ、これは画期的な改善策でした。

また、クッキー焼成前に鉄板に油を塗布する工程にも目をつけました。これまで15秒かかっていた油の塗布に、噴霧機を導入することでなんと5秒に短縮。業務効率が格段にアップしたのです。

下大澤:この記事を読んで興味のある方は、ぜひお問い合わせください(笑)。

司会:当たり前を疑うのは難しいですが、大切な視点ですね。

 

新たな試みに、心の扉が開いた

司会:クッキーロスの活用案から生まれたバザーは管理部主導のイベントということですが。

遠藤:そうなんです。生産現場での改善の声が聞こえてくるなか、管理部でも何か貢献できないか、と私たちも相談を始めました。例えばクッキーは、形が正円じゃないと製造ロスとなってしまう。味は商品と全く同じで美味しいのに、です。それらを地域貢献に活かせないか、バザーを開催して来場者に楽しんでもらうイベントにできないか、とアイデアが出てきました。

製造ロスとなってしまったクッキーや焼き菓子は、「詰め放題」という斬新なイベント企画となって日の目を見ました。他にも、焼きたてアツアツの人形焼を一人ひとりに振る舞うなど、生産工場ならではの催しで好評を博し、回を重ねるごとに来場者が増えている、現在進行形の取り組みとなっています。

司会:製造ロスを減らし、かつ工場直販で自ら売上をつくる!素晴らしい発想ですね。

遠藤:倉庫の一部に常設の直売所を設ける、人形焼やクッキーの自動販売機を設置したらどうか、などのアイデアも出ましたが、最終的には実行可能性が高く、皆で取り組めるバザーをまずは開催してみよう、という話になったんです。

司会:バザー開催が決まった時、遠藤さんはどう思われましたか?普段の事務作業とは違う仕事ですよね。

遠藤:実は「面白そう」と思ったんです。実際にやってみて、「楽しかった!また来ます!」「ここで人形焼とかクッキー作ってたのね。知らなかった」など、お客さんと直接コミュニケーションがとれたのも収穫でした。お客さんが楽しんでくれてることが直に伝わってきて嬉しかったです。

司会:普段は本社経由で間接的に聞いていたお客さんの声を直に聞けたのはうれしいですね。

遠藤:最初は、どうやったら集客できるのか、買ってもらえるのか、喜んでもらえるのか、と不安もありました。管理部がリードしましたが、バザー開催の案内チラシを皆で近隣に手配りしたり、企画内容も家族連れが楽しめるよう、ヨーヨー釣りなどお祭り的な演出もしよう、当日は工場までの道案内にノボリを立てよう、と製造部の皆さんからもたくさん意見が届いて、皆で一体となって取り組むことができました。

司会:来場者数は?

遠藤:時間が9時から11時半くらいまでの2時間半なんですけど、その間に200名以上の方が来場されました。

下大澤:コロナになって悪いことばかり、と思ったりもしましたが…野田工場はこれらの取り組みによってワンチームになれた気がして良かったです。あのまま漫然と日々を過ごしていたら今の団結力はなかったでしょうから。

司会:ワンチーム!良い言葉ですね。事務職の方々は、製造部での改善をどんな風にご覧になっていたんですか?

遠藤:繰り返しになりますが、製造部の方々は5S、整理整頓がすごく上手で、いつも見習わなくてはと思っていました。整理整頓ができていると、気持ちいいな、働きやすいな、と気持ちが前向きになります。あと改善の進捗が事務所にも聞こえてくるんです。同じ場所にいる、空気感を共有することも大事だなと思いました。

それぞれが本領を発揮して、輝ける現場に

司会:ショウエイ野田工場の「改善」はまだ始まったばかり。初年度は業績がV字回復しましたが、この歩みを続けるための展望をそれぞれお聞かせいただけますか。

森下:私は「現場力を上げる」です。上司頼みでなく、自分たちでできることを自発的に考えてやってみること。一人ひとりの現場力が上がれば、チーム全体としてより強くなれると思いますから。

遠藤:私は…「課題解決するために、まずは整理整頓から」でしょうか。目の前のできることからコツコツやっていきたいと思います。

下大澤:「ショウエイ野田工場のことで困ったことがあったら、下大澤に聞こう」と思ってもらえるような存在になることです。

司会:なるほど。下大澤さん、そのためにはもっと笑顔でないと(笑)

遠藤:私の中では、現場では下大澤さんは厳しい顔をされているイメージです(笑)

森下:怖い顔ばかりではないと思うんですけど、下大澤さんはオンとオフがはっきりしていて、オンの顔、現場では「北風と太陽」に例えるなら「北風」かもしれません(笑)。

司会:テーマは「柔和な顔」ですね。ではこの機会に約束してください(笑)

下大澤:はい、笑顔を心がけます。

森下:ライン長が急にニコニコしだしたら、僕たちちょっと心配しちゃうかもしれないので、徐々に、でお願いします(笑)

 

司会:今日皆さんのお話をお聞きして、V字回復には、技術的改善はもちろんのこと、職場の雰囲気も大切だということがわかりました。一人ひとりがお互いに認め合い、感謝の気持ちをベースにコミュニケーションする、その秘訣は肯定から入ること。これはどんな現場にも通じる原理原則なんだなと。
そう遠くない将来、「続編」の取材にまた来ます。その時はきっと「黒字転換したショウエイ野田工場」というテーマになりますね。今日はありがとうございました。

【工場長談】
取材を終えて皆が退社した後の事務所。そこには現工場長の高橋さんの姿がありました。工場長の視点からも今回のV字回復についてのお話を伺ってみたかった私たちは、追加インタビューを敢行。番外編としてお届けします。

高橋 照芳さん
野田工場 工場長 兼 本社 企画部
2007年入社
2021年9月より工場長に就任。

工場長としての苦悩を抱え込んでいた日々

司会:いただいた名刺を見て驚いたんですけど…「野田工場 工場長 兼 本社 企画部」となっています。高橋さんはショウエイ本社の仕事も兼務されているのですね。本社と工場はどれくらいの頻度で行き来しているのですか?

高橋:割合としては、工場3、本社2です。

司会:両方のお立場から見て、今回のV字回復が叶ったポイントはどこにあると思われますか?

高橋:実際、実務で動いてくれたのは工場のメンバーたちです。ライン長の下大澤を中心に、工場の隅々まで目を行き渡らせて改善の芽を探して育ててくれました。任せて安心なメンバーだと信頼しています。ただ、私自身はなかなか現場へ足を運べていなかった。反省点でもあります。実は、ショウエイの本社も人員不足で、ひとりで何役も兼ねている状況で…。私も工場へ発注する前工程である営業や企画、工場製造全商品の原価計算と規格書や表示計算・作成、生産管理に当たる業務にも携わっています。本社から言われるがままに生産し、ロスが発生すればそれはすべて「工場の責任」と言われがち。その状況から工場を守りたくて、前工程から数字を正確に把握できるよう努めてきました。菓子業界のトレンドやスポットで何がブームになっているのか、などアンテナを巡らせてのリサーチも重要です。そのためメンバーから見た工場長としての現場感や存在感が薄い、ということは自覚をしています。前工場長が専門的な知識を有するプロフェッショナルであり工場を立て直してくれた立役者でもあるので、その方との比較も当然あるでしょうしね。

ただ、私ができることとして、毎月の棚卸を通じて損益が改善している状況は常に把握していましたので、現場の改善活動を信頼して任せることができました。

 

「ありがとう」の気持ちを伝えていく

高橋:私は入社して16年経ちますが、本社では企画部でOEMやPBの営業窓口を担っていました。顧客や市場、商流全体を見渡せる立ち位置で現在は工場長も兼任していますので、今後の課題としては本社と野田工場の架け橋として、双方の思いを翻訳して、それぞれにわかる言葉で伝えていくことなのかな、と感じています。

司会:V字回復プロジェクトの結果や今回の取材を通じて、ショウエイ本社のイズムである「やってみよう」は、野田工場の現場にもしっかり根付いている気がしました。本社と工場双方の理解への第一歩は、まずは「ありがとう」の言葉を増やすことなのかもしれませんね。

高橋:そうですね。やってみます。

司会:今日はありがとうございました!